新酒

飛騨に紅葉と国宝・町並みを見に行く

 「こころ旅」で見た飛騨古川の町並みを見たいとTが言う。多分飛騨の紅葉は見頃に違いないと、またまた急遽出かけることに。(遊ぶ相談はすぐに決まる)

 飛騨古川は私(連れ合いとも)にとっては、思い出深い町だ。というのは、三十数年前、この町で人生一回きりの仲人を承った。夫の同僚のSさんと私の同僚のMちゃんは人柄がいいのに、いろんな事情で婚期を逸しかけていた。この二人を結びつけようとお節介をやいたのである。花嫁のMちゃんが二人合わせて「七十ウン歳」と笑ったが、なかなかどうしてお色直しも二回して賑やかな結婚式であった。Sさんの故郷、古川のしきたりとかで、大きな塗盃に地酒をなみなみと注がれて戸惑った思い出もある。二人は一女に恵まれて今も幸せであることは違いないが、ご両親は他界、古川の実家は処分されたという。

 そんな思い出もある古川をもう一度訪れるのも悪くはない。ただし今度は列車(高山線)ではなく車でである。中濃の郡上辺りまでは、山の色づきもまだまだであったが、北上するにつれて全山真っ赤、赤い山々のつらなりに感嘆の声しかない。標高が高い飛騨の紅葉は今がさかり、白い穂が波打つ芒との対比も見事で「日本の秋」そのもの、あまりの美しさに平凡な言葉しか出てこない。

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色づいた山並みの向こうに冠雪の白山(サービスエリアから)

 

飛騨市安国寺の国宝経蔵

 最初の目的地は飛騨安国寺である。飛騨市へ行こうと地図を見ていて安国寺が近いことに気づいた。飛騨安国寺には岐阜県に少ない国宝の建築物があることは、以前から知っていたのでぜひ寄ることにした。

「太平山安国寺」は妙心寺派のお寺である。足利尊氏、直義が全国に設けたという安国寺の一つで、ここは飛騨の国の安国寺である。かっては七堂伽藍と塔頭を抱える大寺であったが、戦国の戦禍で、「経蔵」と「開山堂」のみ焼け残ったという。この内「経蔵」は1408年と古い建立のうえ内部の八角輪蔵は日本最古のもので国宝に指定されている。大きな筒のような書棚に一切経が納められており、ぐるりとまわすとすべて読んだだけの功徳があるという。お寺の方に勧められて少しだけ動かしたが、今もなめらかな動きだ。

 「要予約」とネットにあったので前日電話をして訪れたが、お庫裡さんと思われる女性の気持ちのいい対応と説明に、参拝してよかったと思ったことだ。

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安国寺山門

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経蔵

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飛騨古川の町並み

 古川の町並みはレトロである。なんでもアニメ映画『君の名は』の町のモデルになったらしいが、確かに物語が紡がれそうな雰囲気がある。同じ飛騨の高山よりずっと素朴で現実的生活感もある。小さな町で一時間もあればひと廻りできてしまう。路地を歩いていたら、酒蔵から麹のいい香りが漂ってきた。軒先に青々とした杉玉が掲げられている。あの日いただいた地酒「蓬莱」の酒蔵である。「どうぞお寄りください」とあるので、暖簾をくぐったら、利き酒を勧められた。一日に絞ったばかりの新酒で実にフルーティー、連れ合いはにごり酒大吟醸までいただいてすっかりご機嫌、新酒とにごり酒を買う。町中の疎水にまるまるした鯉が群れる。町外れに金子兜太さんの句碑があった。

 斑雪嶺の紅顔にあう飛騨の国  兜太

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高山線 飛騨古川駅

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有名な和ろうそく屋さん

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「蓬莱」の酒屋さん。杉玉が出ている

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冬ごもり前の鯉

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金子兜太句碑

円空仏の千光寺

 連れ合いが以前来たからと、高山郊外の千光寺に寄ろうという。くねくねと曲がりくねった山道を登ってたどり着いた千光寺。ここも予約がいって円空仏寺宝館は見られず。しかし、山の上のお寺からは雪を被った北アルプス御嶽山が遠望できた。

 晩秋の暖かい日差しと紅葉に恵まれ明るい内に帰宅できた満足な一日だった。

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乗鞍岳など。

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御嶽山 かすかに噴煙が見える。 

 

 

 

 

        鯉太る新酒のかほる飛騨の町