コスモス

不当逮捕』 本田 靖春著

 この本のあらましについては先日少しだけ触れた。ともかく面白かったが、詳細に触れようとすると手に余る。能力のなさを曝け出すだけなので、簡単に書きたい。

 先にも触れたが、背景に検察界の権力争いがある。戦前からつづく根深いもので、この渦中に読売新聞の俊才記者がはまったというか、はめられた。結果、記者生命を失い人としての尊厳もなくしたという事件の顛末である。

 様々なスクープをものにし華々しい活躍をし、私生活でも破天荒な生き方つらぬいていた立松和博という新聞記者。突然彼が「売春汚職報道」の誤報疑惑で逮捕された。彼のニュースソースが地検にあると睨んだ高検の一派の企てである。当然ながら彼は取材元を明らかせず、報道の自由を廻って世論の擁護もあったのだが、事件追求への政治的介入があり、立松の記事は誤報の烙印を押されてしまった。世に名高い「造船疑獄」の指揮権発動(s29)と同様、捜査頓挫である。記者としての矜持を踏みにじられ、人としての誇りもうしなって麻薬や酒に溺れていった立松。

 彼に愛され後輩記者として身近にいた筆者が、二十五年の歳月をおいてその全貌をつぶさに記したのが、この一冊である。事件の全貌もさりながら立松の人間像の描写がかなり興味深い。戦後の一時代に愛され、その後の時代に裏切られていった立松和博という人間のすべてが手に取るように感じられた。

 「その後の経過をまつまでものこともなく二大政党政治とは名ばかりで、このとき保守永久政権が約束されたといってよい。そして、政・財・官の構造汚職は深化するばかりであった」

と、著書にある。その後とはいわゆる「五五体制」以後であり、それは今も続いている。

 

 余談だが、付録で第六回講談社ノンフィクション賞選考委員の選評が載録されているが、みなベタ褒めである。どの選者もすでに物故者で、ただおひとり加藤秀俊さんがご存命のようだ。「昭和は遠くなりにけり」だ。

 

 

 

 

     

      風の癖正しコスモス括りけり

 

 

 

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