新涼

『暗き世に爆ぜ』 小沢 信男著

その一

 『俳句世がたり』の続きが読みたいとて、さんざん迷って久しぶりに本を買う。ケチではなくて物を増やしたくない。そんなことは一種の宗教だとTには言われるが、でも・・・まあいい。

 さて、本は期待に違わず。一気に読んでしまうのはもったいない。まずは前半、「賛々語々」より収録の部分を、じっくりと。

 飄々として洒脱な語り口ながら、社会批評は鋭い。添えられた俳句がどれもよく効いている。

   蜜豆をギリシャの神は知らざりし

   無礼なる妻よ毎日馬鹿げたものを食わしむ 

 句はよく知っていたが、作者橋本夢道のことは知らなかった。洋品雑貨商や銀座のパーラーに勤めながら自由律のプロレタリア俳句をめざし、治安維持法違反で、逮捕入獄。二冬を独房で過ごしたことなども。

 洒落た蜜豆の句は、彼があん密の創案者のだった由と小沢さん。下の句は初めて読んだ時は、こんなの俳句?って思ったのだが、彼の来歴を知れば、戦後の食料事情への痛烈な社会批判として読める。

   渡満部隊をぶち込んでぐつとのめりだした動輪

   かぶと虫を手にこの少年の父いくさして還らず

   わが膝の手錠両手に鳴く秋蝉

   村は新緑戸籍に死にし兵帰る

   滅多には握る日もなく握ればかたき妻の掌

   うごけば、 寒い

            『現代の俳句』より

 最後の一句は彼の墓石に刻まれた句だと、小沢さんの本にあり。

 

 又長雨である。八月は二週間も続いた。今度はどうだろう。

もう一週間も体調がすっきりしない。悪寒を伴う高熱で、またもpcr検査も受ける。もちろん陰性。腸が短いだけに思わぬリスクがあるらしい。

 雨のせいか一気に涼しくなった。連れ合いは開けっ放しの障子や衾を閉じて、昼寝を始めた。こちらは夏の間の習慣が抜けないらしい。

 

 

            

      新涼や肩まで覆ふ薄蒲団

 

 

 

 

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ヤブラン  秋は紫が似合う。