法師蝉

『ひとり』 加島 祥造著

 この人の名は、一時『タオ』で耳にしたことがあったが、読んだわけではない。『荒地の恋』に名前が出てきて、ハッとした記憶もある。

 すでに亡くなられたようだが、晩年(65歳からと本書にある)信州の伊那谷での一人暮らしを選ばれ、自然を感受する中で、タオ思想(老子)との出会いを深め、「求めない」「受け入れる」生き方を目指された。

 この本にはかなり晩年の筆者の暮らしぶりと心情を表した詩や散文、文人画、それに美しい伊那谷の写真が収められている。

 陶淵明の「飲酒」の現代語訳が気に入ったので書き写しておく。

  

  こんな村里にいると

  車は通るけれど、 喧(うる)さくない

  なぜなら

  心が遠くをさまようからだ。

 

  たとえば、

  庭に出て、 菊をつむ

  ふと頭をあげると

  南山(なんざん)が目にはいる

  その空には

  夕映えがひろがっている

  二羽の鳥がうちつれて

  林に帰ってゆく

 

  こういうひと時には

  なにか永遠の真理が宿っている

  そう思うんだがね

  それは何かということは、 どうも

  口では言えんのだよ

 

 

 

 

 

         湖にくだる坂道法師蝉

 

 

 

 

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