『日本語の古典』 山口 仲美著

 奈良時代から江戸まで、韻文は除いて三十編の名作が取り上げられている。個々の章は短いが、それぞれにテーマを絞り、主に「言葉と表現」に注目しての紹介である。

 一応国文学の専攻のはずだが、三十篇の中で読み切ったといえるのはわずかに四篇。今更ながら不勉強であったと反省するばかりだ。

 さてさて、ここで初めて知ったことはいろいろあり。まず『日本書紀』だが、かの書物が漢文で書かれているのはよく知られている。その漢文は中国人が書いた巻と中国語を習った日本人が書いた巻があり、それははっきり分けられるそうだ。有名な「大化の改新」で入鹿が暗殺される巻は中国人によって書かれたと推定される巻だそうで、記述が実にリアルで迫力がある。暗殺者に指名された人物は食事も喉を通らず、水でやっと掻き込むが恐怖で嘔吐してしまう。天皇の前で上奏文を読む山田磨呂は冷や汗を流し、声は乱れて手が震える。殺された入鹿の遺骸には蓆が被せられて雨で水浸しになった庭に転がされている。まるでドラマの映像を見るようなリアルさ。これはきっと「暗殺現場に居合わせた人物の記した記録」の証言に基づいて記述されたのにちがいないと筆者の推測。ということは鎌足中大兄皇子の記録か。『日本書紀』には不比等の力が大きいというから、さもありなん。

 『竹取物語』についてもかぐや姫が「月の世界から人間界へ追放された罪人だった」なんて知ってました?ちゃんと月の世界からの使者がそう言っていると書いてある。随分高慢なお姫さまだとは思っていたが、まさか罪びとだったとは。多分男性が筆者のせいか、男のような固い口調で話すお姫さまでもあったようで、中学生の教科書にもある冒頭の部分だけではわからぬものだ。

 その他、面白いなあと思ったところはいっぱい。日本の古典文学を見直してしまった一冊だった。

 

 

 

 

        燕飛び来銃弾の撃ち貫くごとし

 

 

 

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日本語の古典 (岩波新書)

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 あんなに鳴き騒いでいた鵙がぱたりといなくなりました。子育てが終わったのでしょう。川べりを歩いていると燕がぶつかるように飛んできて、はっとします。用水に水が入り始めました。

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ベニバナツメクサ