春の庭

『民族衣装を着なかったアイヌ』 瀧口 夕美著

 編集工房「SURE」から書籍案内が届いた。てっきりTへの案内だと思ったのだが、宛先はH殿。珍しいこともあるものだと仔細を本人に訊ねたら、この本を出してきた。何年か前にアイヌのことを調べていて購入したらしい。

 著者は「SURE」の編集者で、後で分かったことだが黒川創氏夫人である。この本は、アイヌの出自を持つ著者が、自らのもやもやした気持ちを突き詰めるために書かれたもののようだ。複数の少数民族の人々に話を聞き、その歴史や今の暮らしぶりを、どちらかと言えば素朴な文章でまとめてある。四章からなり、初めはアイヌ出身の母の話、二章目はウイルタ出身の女性の話、(ウイルタはかってサハリンに居住していた少数民族)三章目はサハリンに残りつづけロシア人として暮らす日本人と朝鮮人の親を持つ女性たち。そして最後の章はもう一度「日本化した暮らしの中でアイヌとして生きた」人の話。

 女性たちの話は、事実を淡々と語っていて、大部分は悲しみとか怒りとかに遠い。筆者もまたそれぞれの人の歴史を書きながら、自分に繋がる大きな流れをしっかりと受け止めたのではないかと、そんな気がした。

  ウイルタという人々のことは以前読んだ梯さんの『サガレン』で初めて知ったが、日本人扱いで青紙(赤紙でない)招集され、スパイ活動などをさせられたらしい。そのせいで戦後にシベリアに抑留されたにもかかわらず、軍人恩給が支給されないなど理不尽な扱いを受けたようだ。そもそもウイルタという人々がかって同胞であったということをどれだけの人が知っているだろうか。

 サハリンからの帰国を選ばずにロシア人として生きてきた女性の日本文化への郷愁のようなものにも心打たれた。帰国をしなかった自らの選択に間違いはなかったとするものの、若き日に読んだ日本文学への思いや子どもの頃に慣れ親しんだ食生活は、簡単に忘れることは出来ないものなのであろう。彼女らが元気なうちに気楽に行き来出来る環境が整えたらよかったのにと思うばかりである。

 

 

 

 春たけなわとなって、我が家の庭もとりどりの花が咲き始めた。数えてみたら二十種類もある。モズもどうやら無事のようでまずまずひと安心。

 

 

 

 

 

         とりどりや今を盛りの春の庭

 

 

 

 

 

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芝桜

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水仙

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高速道路法面の山桜