春の蝶

『孤塁』  吉田 千亜著

副題に「双葉郡消防士たちの3・11」とあるとおり、東北大震災とその後の原発事故に翻弄され、孤軍奮闘を余儀なくされた双葉郡消防士125名の記録である。

 話はまず大地震直後から始まる。家屋の倒壊などで怪我をした人々を救助しながら予想外の大津波に避難を呼びかけて走り回る彼等に、原発の異常が伝わる。地震発生後一時間もたたぬ時刻であり、さらに追い打ちをかけるように原発が制御不能になったという連絡が入る。線量計を持ち、防護服に身を包み、今度は放射能汚染からの避難を呼びかける。放射能汚染のため各地からの緊急援助隊も入ってこずに全くの孤立無援での活動である。鳴りっぱなしの線量計とともに、休憩も取れず走り回る彼等の目の前で一号機が爆発し、三号機も爆発する。あろうことか原発構内での給水活動や火災対応も要請される。ひとりひとりが使命と命を天秤にかけるような瀬戸際に追い込まれたのだ。

 あの時、私たちはヘリコプターが空から海水をかけるのや、「まだメルトダウンはしていないはず」という安易な解説を空頼みにしてテレビを見ていたのだと今つくづく思い出す。

 十年が経っても原発事故の問題は大きな進捗はないという。増え続ける汚染水すらどうするか結論はでていないようだ。私にできることはせめてあの惨事を忘れないことぐらいしかない。この本を読んだこともそのひとつになればと思うだけだ。尚、本書は本年度の本田靖春ノンフィクション賞を受賞した。

 

 

 

 

       みじか世を遊びつくせや春の蝶

 

 

 

 

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11

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