『上林暁傑作小説集 星を撒いた町』 山本 善行撰
昨夜から雪になり終日降ったり止んだり、夕方になりやっと薄日が差してきた。閉じこもって読んだ一冊。Tの書棚から抜き出してきた夏葉社の美しい本。七篇の短篇からなる撰集だが、どれもいい。なかでも最初の「花の精」を一番に推す人が多いようだが、私は表題にもなっている「星を撒いた町」に惹かれた。
極貧の暮らしをしている旧友を訪ねた筆者と覚しき人が、崖のうえのそのあばら家から見える灯りの瞬く町の景色を見せられる件である。
「燈火の数はさっきよりも幾分すくないようではあるが、それでも数限りなく煌めき合っていた。これは空の星を撒いたんだ、と白河はもう一度感嘆した。それにしても、撒かれた美しい星の棲むこの街には、どんな人達が生活を営んでいるのだろう。」
この白河の疑問に対して旧友はプロレタリア文学などで名高い『日月のない街』、つまり「東京で指折りの貧民街」だという。
「いくら貧乏でも汚くても、心までは汚くなりゃしないさ。むしろ無邪気できれいだよ。つまり灯は心の表現だね。」
この後、この広々とした眺望が貧窮のどん底にある旧友のこころを和やかにしていることに安んじて、筆者は辞去するのである。
他の篇に登場した無頼の俳人高台鏡一郎の話も心に残った。引用されている彼の俳句をここに写しておきたい。
冬日ざし膝に評釈『冬の日』など
むぎこがし吹きちる徒食の膝がしら
上林の作品は病妻ものが読ませるという。確かTの書棚にあったはずだから、また読んでみたい。
春の雪厨の窓のゆきあかり
- 作者:上林 暁
- 発売日: 2011/07/04
- メディア: 単行本