草の花

『史実を歩く』  吉村 昭著

 図書館の文庫本の棚を渉猟していて行き当たった。読み始めて前に読んだような気がしてきて自分の書棚を探したらやはりあった。

 再読してもおもしろかったのはすっかり忘れていたこともあるが、やはり史実の重みであろう。

 記録文学というジャンルのせいかあるいは筆者の人間性によるものか些細なことすらおろさかにしない創作姿勢というものには驚くばかりだ。

 例えば『桜田門外ノ変』で当日の朝の雪が降り止んだのはいつ頃であったかという一点についても、何人かの日記を探索しやっと正午過ぎには止んでいたのを突き止めて執筆を訂正するという慎重さである。

 ここまでの姿勢が作品に対する信頼にも繋がるわけで先の「東日本大震災」後に「三陸海岸津波」が評判になったのもうべなるかなと思う。

 吉村さんが亡くなってもう十年になるようだが故人にふれた津村さんの本で、家事などをしないでもっと書くことを勧められていたというエピソードを読んだ。心から妻の力を認めておられたのだなと印象強く思ったことがあった。

 

 

 

 

   

           草の花さびしき老いの長話

 

 

 

史実を歩く (文春文庫)

史実を歩く (文春文庫)

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