雨蛙

『これで古典がよくわかる』 橋本 治著

 どういうわけだか昨夜は眠気がなかなか訪れなくて、夜半すぎまでかかってこの本を読了してしまった。橋本さんの言葉によれば、古典に嫌気がさしているにちがいない受験生が対象ということで、誠にわかりやすい。いいおさらいができたと思う。

 そのひとつは、日本語の表記が漢字だけの漢文から始まり、万葉かなでの万葉集、ひらがなだけの源氏物語、カタカナ+漢字の今昔物語集を経て、やっとひらがな+漢字の徒然草に至るまでの道筋である。この間450年、なぜこんなに時間が掛かったかと言えば、チコちゃん流に言えば「それは教養ある大人が漫画を読むようなものだから」だそうだ。つまりひらがな書きは馬鹿にされてた。

 和漢混淆文でも『徒然草』は二種類の文章が入っていて、意味がとりやすいのはカタカナ+漢字の書き下し文由来、意味が取りにくいのはひらがなだけの女性の文章由来というのは、言われてみて初めて気付いたことだ。どうやら若き日の兼好さんは女性のひらがな文章に触発されて『徒然草』を書き始めたらしい。

 これ以外にも勉強になったことはいろいろあったが、ひとつは「あわれ」と「をかし」をどう訳すかということ。「あはれ」は「ジーンとくる」で、「をかし」は「すてき」なのだ。「しみじみとした風情」とか「おもむきある」とかピンとしない言葉で訳していたなと思う。

 古典といえばもっぱら平安時代の女性文学を指すのは明治政府の政策だから、わかりやすい和漢混淆文あたりからどうぞということだが、和漢混淆文あたりは卒業しても平安時代は敬遠しっぱなしだった身としては、せめて橋本訳の平安古典でも読んでみるのがいいのかな。

 

 

 

     ジャムを煮る甘きかをりや雨蛙

 

 

 

 

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春の花が終わってだんだん庭も夏めいてきた。H殿は今日、馬鈴薯の初収穫。

 

これで古典がよくわかる (ちくま文庫)

これで古典がよくわかる (ちくま文庫)