雪柳

『旅の終わりに』 マイケル・ザドゥリアン著 小梨直

 ジョンとエマは80歳を超えた老夫婦。そのうえジョンは軽い認知症でエマは末期癌を患っている。この二人が周囲の反対を押し切ってというより反対する周囲に内緒で人生最後の旅に出る。行く先はデズニーランド、懐かしの大陸横断道路「ルート66」をたどる旅だ。ちなみにジョンはかってはGMの技術者。荒廃しきったデトロイトが彼らの出発点だ。

 「ルート66」といえば私も懐かしい。ちょうど中学生から高校生の頃だった。「ルート66」というアメリカ製テレビドラマに夢中になったものだ。主演の若い二人の男優にあこがれた思い出がある。もちろん今や「ルート66」は寸断され昔栄えた沿道の街まちも忘れ去られた。

 寂れた「ルート66」も寂れた街も若かった二人が子どもたちを連れて旅をした場所だ。

 死んだのは若かったあの時代、羽をのばした週末、分かち合った痛みや、喜びや嫉妬、ほかのだれにも打ち明けられなかった秘密、ふたりだけの内緒の思い出。

 キャンピングカーでの夜ごとにエマは懐かしいスライドを出す。可愛かった子どもたちやもう亡くなった友人たちとの思い出。そう、旅をしながらたどるのは外でもない二人の人生の軌跡だ。

 携帯電話の電源は切っているが、時おり子どもたちに電話を入れる。「すぐに帰れ。捜査願いを出す」と罵倒され懇願され、でも「こんな楽しいことはないの」と二人は旅をやめない。

 ジョンがエマを置き去りにしたり、追い剥ぎを撃退したり、貧しそうな若い夫婦に愛を恵んだり、豪華なホテルで散財したり、ジョンの切れ切れの記憶に涙したり・・・エマは絶え間なく薬を飲みながらやっと辿り着いた終着地。青い大平洋とデズニーランド。     最後は?

 結末はこの本をこれから読もうと思う人のために書かないことにする。「最期ぐらい好きにさせてよ」というのは希林さんの言葉だったかしらん。「あなたがとやかく言うことじゃない」とはこの本のエマの言葉だ。エマが二人の愛のために選んだ旅だったのだ。

 

 さて、私自身は「老いる」ということにまだあまり感傷的にはならないようにしたいと思う。しかし冷静にすべきことだけはしておきたいとも考える。もう間違いなく折り返し点は遥かに過ぎたのだから。

 

 

 

 

          雪柳ひとにはひとの流儀あり

 

 

 

 

旅の終わりに (海外文学セレクション)

旅の終わりに (海外文学セレクション)

 

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