炎昼

『ラブという薬』    いとうせいこう星野概念

 トシヨリでスマホも持たない当方は、SNSの世界を渉猟するということはまずない。ところが今やや若い人にとってはSNSの世界は片時も切り離せぬものらしい。いとうさんによればスマホを瞬時でも忘れるというアプリもあるらしいから、相当重症化していると考えてもいい。そうなると魅力もあれば毒もあるということで、そのため社会全体がギスギスしているとか低年齢化しているとかは、トシヨリでも聞かない話ではない。

 この「きつい現実」にいとうさんと星野さんは人間関係での「傾聴」と「共感」の大事さを強調する。実は星野さんというのは精神科医でいとうさんの主治医でもあるのだが、カウンセリングを受ける患者対医師の構図の延長線上にこの対談がある。つまり「傾聴」と「共感」はいとうさんが星野さんとの出会いから学んだことなのだ。この星野さんというのがお若いのに随分度量の広い人のようで(職業的訓練もあるのでしょうが)何か悩みがあるならこういう人ならじっくり話を聞いてもらえそうだ。精神科受診のハードルを下げることもこの本の目指すところらしいがその点でも企画は成功していると思う。

 いろいろ弊害はあってもこんなトシヨリでも今やSNS抜きに暮らしは成り立たない。いいのか悪いのかともかく世の中は変わってきたのだと痛感する。

 

 

 

 

     炎昼の戸を閉ざしたり老いの家

 

 

 

 

ラブという薬

ラブという薬