夏深し

『晩年の父』   小堀 杏奴著

 「アンヌコ、ヌコヌコや」とか「パッパコポンチコや」とは時に鴎外が子どもたちを呼んだ愛称である。いかにも可愛くてたまらないという気持ちだ。我が家も子どもたちが幼かった頃は可愛い動物名を冠して呼んだものであるから、この気持ちはとてもよくわかる。よく「目の中に入れても痛くない」などというがそんな気持ちかもしれぬ。

 表題作はまさにそんな生身の鴎外晩年の姿を描いた筆者の父恋の想いに溢れた一冊である。鴎外は著者の14歳の年に亡くなるのであるが、ちょうどその一年前からの思い出だ。おそらく間近に迫る死期を感じていたであろう鴎外の、まだ幼い子供たち(杏奴と類)に寄せる痛々しいまでの慈しみの姿である。子どもたちの我儘にも根気よく付き合い、翌年に受験を控える筆者の勉強もみるという父である。役所に通いながら病気持ちで体力的にも厳しかったにちがいない。それでも鴎外は「強くて強くて本当に優しいのに強かった。」

 時に鴎外の気持ちをうべない、時に筆者の想いに寄り添い何度も目頭が熱くなった。まさに鴎外は最期の最期まで「理想の父」であった。

 

 

 

 「猛暑」と「酷暑」とどちらが厳しいのかと思うが、いずれにしてもこの暑さはまだ終わる気配がない。ことにこの二三日は終日冷房が切れない。畑の野菜も花々もさすがに元気がなくなってきた。朝のうち動いて後は読書か昼寝というトシヨリのこのごろ,「こころ旅」も昨日の岐阜で終わったし、お相撲も明日までだし、ちょっと寂しいな。

 

 

 

 

     屋根までも伸びし徒長枝夏深し

 

 

 

 

晩年の父 (岩波文庫)

晩年の父 (岩波文庫)