日の盛り

「火花」 又吉 直樹著
 重版に重版を繰り返した話題作である。今さら何かを語るまでもあるまい。舞台はお笑い芸人の世界だが誰もが思い当たるような青春の友情・挫折物語だ。又吉さんを彷彿とさせる語り手の徳永は、はからずも青春期を離陸した。仮に又吉さんだとすれば、それも見事な飛翔だ。一方、神谷はどうしただろうか。「理想が高く、己に課しているのも大きかった」「周囲に媚びることも出来ない」と徳永に言わしめた神谷。才に溺れた彼が行きついた果ての奇行の哀れさ。彼は「本物の阿呆か、自分を真っ当であると信じている阿呆か」どちらであろうか。いずれにしろ青春期の熱病にいつまでも取り憑かれているのは「阿呆」であろう。私達の時代にもそういう「阿呆」はいたからこの話は痛々しく心に沁みた。




     幸薄き人を送りし日の盛り



 何年か前、暑い盛りに逝った人を思う。いつも世話になった美容師さんだった。不幸な生い立ちで、長じてからは道ならぬ恋で一人息子を授かったが、三十代の若さで癌に負けた。この句は彼女の思い出に繋がる鎮魂句。


火花

火花