くちなし

「雑兵たちの戦場」 藤木 久志著
 毎日のようにメディアの伝える戦争の世界。ことに中東やアフリカの人々が戦禍に翻弄される有様。難民となり劣悪な環境でやせ衰えた子供たちの虚ろなまなこ。対岸の火事をみるようなわれわれ日本人大衆にとって、それは決して他人事ではなかったという五百年前の話。戦国時代の打ち続く戦乱と繰り返される自然災害と飢餓。人々は生き抜くために戦場に出向き勝てば掠奪、負ければ死か奴隷。戦国の英雄譚には決して描かれなかった悲惨な現実。例えば天正三年信長の越前一向一揆制圧の時は「生捕りと誅させられた分、あわせて三、四万にも及ぶべく候か」といわれた。生け捕られた女や子どもは人身売買されたり奴隷として使われたり、中には東南アジアに売りとばされたのも多いという。戦のために傭兵を必要とする武士と喰うための稼ぎ場を求める大衆、そのタッグも秀吉の天下一統で崩れかかったが、新たな稼ぎ場として用意されたのが朝鮮侵略の戦場であり、大規模な城普請。疲弊した農村を捨て稼ぎ場を求めて流出するものは多く、結局1621年の徳川幕府の禁令によるまで安価な日本人の傭兵と奴隷の供給は続いたという。
 この本を読んで思ったのは、こういう厳しい現実を我々の先祖はどうやって生き延びてきたかと思いを新たにしたことと、徳川幕府の施策。例えば「鎖国」などもいままでは知らなかった価値や意味があったようだ。なによりも三百年もの平和は日本人の心根を真底から変えたかもしれない。




     くちなしや女人伝説ある古墳




【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

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