二十四節気のひとつ。春の気が感じられる頃の謂。今日の天気予報では文字どおり春めいた日になるようでありがたい。寒さのぶり返しはあるに違いないがここまで来たと気持ちは軽い。
掲載句は「立春」を詠んで、際立った名句。「立春」と「米」との取り合わせも絶妙ながら、音調が明るく春を迎えた喜びが溢れている。中七のOと下五のAの開母音の連続、つくづく巧いと思う。
「言わなければよかったのに日記」 深沢 七郎著
「楢山節考」は読んだが、著者についてはよく知らない。ただ団子屋や今川焼屋をやった異色作家ぐらいは知っている。表題が面白くて借りてきたが、案に違わず中身も面白かった。人を食っているのか、とぼけているのか(そう言われるのを嫌だと書いていたが)文壇デビューをして戸惑っているうぶな己を戯画化している。交流のあった正宗白鳥や石坂洋次郎、武田泰淳、石原慎太郎などの素顔も興味深いが、一番は「とてもじゃない日記」。新国劇の辰巳柳太郎に「あんたの小説は実存主義だよ」と言われて「実存主義」の意味に悩む話。中身がわからず言葉が一人歩きしていた世相を皮肉っているところもあるのかなあと思う。何しろ一筋縄では語れない人だから。この後「白鳥の死」という短編も読んだのだが、忠犬のように寄り添っていた正宗白鳥の死を語る筆致が随分シビアだった。
立春の米こぼれをり葛西(かさい)橋 石田 波郷
- 作者: 深沢七郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1987/11/10
- メディア: 文庫
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