散紅葉(ちりもみぢ)

「うたかたの日々」  諏訪 哲史著

 朝日新聞の名古屋版に長く続いた「スワ氏文集」をまとめたものである。これは第二弾で2012年以降のもの。他に別の新聞などに掲載されたエッセイも含んでいる。

 さて、「スワ氏文集」といえば一番愉快なのはコテコテ名古屋弁の婆さんの会話である。読めばいつもあの金さん銀さんを彷彿とさせるのだが、最近はさすがここまで純粋(?)な名古屋弁は河村名古屋市長くらいだなあとしみじみ。こんなに忠実に名古屋弁を再現できるとは諏訪さんは随分「言葉」に鋭敏な人だ。近頃のわけのわからない若者の会話を揶揄した「イミフの三人」なんて全く当方などははイミフなのだもの。

 自虐ねたも面白い。憶良の貧窮問答歌のパロディ「平成貧窮悶倒歌」など、なかなかだ。パロディといえば般若心経のリズムで唱える「般若腹イタ心経」もある。真面目なお坊さんには叱られそうな内容だが。

 名古屋周辺人としては地元ねたもまた楽しい。そうそうと相槌を打つこと数多。名鉄の車掌時代に諏訪さんが遭遇したというニセ車掌さんなんて本当かいなと大笑い。

 否、笑い話だけではありません。後半の権力批判。世相のせいか、諏訪さんの体調のせいか前半とはがらっと変わった重い話題ばかり。でも諧謔性をなくさないのが諏訪さん。「諷刺劇」など、この国のトップに立った祖父と孫との架空対話だがあまりにリアルで怖くて笑えぬ。

 諏訪さんの面白さは本当は誰もがちらっと思っているのだが、わざわざ人前では言わなかったり言えなかったりすることをあからさまにしてくれることだろか。こんな諏訪さんが実は子供のころは吃音で悩み、今は躁鬱病で苦労しておられるという。この底抜けの面白さにはそういう背景もあるのだとしみじみ感じいった次第だ。

 

 

 

 

     ささへたる姉の温もり散紅葉

 

 

 

 

うたかたの日々

うたかたの日々