秋光

芭蕉庵桃青」 中山義秀

 なかなか読み応えのある一冊だった。時に翁の行脚に付き合い時に翁の孤愁に寄り添い、一句一句を読み継ぎようやく読み終わった次第。裏表紙に「義秀文学畢生の力作」と紹介されていたが織り込まれた発句や連句の数多さからも、芭蕉の風姿、蕉門俳句の全体像が立ち上がってくる。それにしても、筆者の病死で未完となったのは残念。あとがきによれば後二回のことであったらしい。しかし、世俗の幸を求めず清貧に身を晒しひたすら風雅の道をもとめて生きた芭蕉の姿はしっかりと伝わった。以前読んだ嵐山さんの翁像とは違って一切の俗姿を排した翁像である。

 この本で今まで読み慣れてきた秀句がどんな状況で詠まれたかがよくわかったが、一つの秀句をものにするにはかなりの推敲があり、時には虚構も混じえての創作があったこともわかった。俳聖にしてこれだけの苦心努力である。読み捨てて憚らない当方とは比較にならない。「冬の日」から「猿蓑」まで連句の一部ももちろん取り上げられているが、連句の風趣はどうもわからない。筆者も「一読したばかりでは前後の脈絡がつかめず、その醍醐味にふれることができない。」と書いているが、当方のような浅薄な知識ではしょせん無理なことなのだろう。

 子規は芭蕉をあまり評価しなかったと聞くが芭蕉はやはり「俳聖」にちがいない。

 

 

 

 

     秋光や喪服の人と同船し

 

 

 

 

芭蕉庵桃青 (中公文庫)

芭蕉庵桃青 (中公文庫)