鯔(ぼら)

「空席日誌」 蜂飼 耳著

 変わったペンネームだ。以前、Tにこの著者の別の本を薦められた時、「男性なの?女性なの?」と聞いた気がする。今回もやっぱり同じことを聞いて「そうだ女性だった」と思い出した。多才な人である。紹介を読むと、詩人としての活動が中心のようだがエッセイ・小説・絵本・翻訳と広範囲にわたる著作活動。この本はその内のエッセイと短編小説か。エッセイといっても全て見開き2ページの長さ。散文詩ともいうべき吟味された文章。どの話も静謐な印象がのこるのはなぜだろう。多分、筆者が自分が感じ取ったものに、丁寧にしっかりと向き合っているためだろう。私にはちょっと耳にした会話やちょっと目にした光景などからこんなに話を紡ぐことはできない。やはりこれは感性の披瀝というか、詩なのですね。

 出雲に出かけた話がある。歴史と自然が調和したいいところだったなあと昔の旅を思い出す。

過去からのにおいが低く流れて、迫ってくる。 過去が、過去の分厚い層から剥がれ、ひらひらと降ってくる。捕らえることはできない。ただ、眺めるだけだ。・・・浜辺へ出ると、わかめが打ち寄せられ、休んでいる。拾われることのない、ぐったりとした深緑の断片。「今」という時に挟まれた栞のように、それはじっとしている。

                      「猪目洞窟」から

  トシヨリになったせいか早寝早寝のリズム。一時と比べると、このところ「夜明け」が遅くなってきたなあという感じ。朝もしきりに虫の鳴き声。

 

 

 

 

 

     鯔跳ぶや出雲の国は水近し

 

 

 

 

空席日誌

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