稲の花

「さい果て」 津村 節子著

 この筆者の作品は、「紅梅」や「夫婦の散歩道」など吉村氏没後の思い出を書いたものしか読んだことがない。が、たまたまTが古本屋で仕入れてきた山積み本の中の一冊という縁で手に取る。「さい果て」とひとくくりになっている五編だが、最初はそれぞれが独立した短編として発表されたもの。この内「玩具」は芥川賞、「さい果て」は新潮同人雑誌賞を受賞している著者若き日の作品である。貧しさの中でも作家を志すやや偏屈な夫や、さい果ての地まで流れて行商をせざるをえない夫婦の貧しいたつきの様子など、私生活に題材を得たと思われるところも多いが、決して私小説ではあるまい。後書きで筆者もふれているが、女主人公の幼さに筆者に重ね合わせることは出来ないし、身勝手な夫に吉村氏を重ねることも出来ない。戦後という日本中が貧しかった時代に、さらに貧しい若い夫婦の危うげながら徐々に結びついていく話として、読ませる点は充分あった。

 吉村氏亡き後のエッセイで、筆者は夫婦が同業であったことを振り返って、お互いの作品は読まなかったというようなことを書いていたが、それはそうであろう。いくらフィクションでも読めば穏やかではなかろうと思う。賢明なお二人だったと思うばかりだ。

 

 お盆の片付けもすんで八月も半分残すばかりになったのにい、いっこうに夏休みらしき空は見られず。Tの話では補習のある高校生などはもう学校が始まるらしい。

 

 

 

 

     さわさわと陸奥も果てなる稲の花

 

 

 

 

さい果て (ちくま文庫)

さい果て (ちくま文庫)