秋彼岸

 秋雨前線の停滞で台風一過の秋天とならず。風の道からは逸れたがいっとき案外吹いたらしく畑はぐしゃぐしゃ。丈のあるコスモス、ひまわり、紫苑などは軒並み倒れるか傾いでいる。今日も雨がちで墓参りに出かけるタイミングが難しい。
 若山牧水「みなかみ紀行」を読んでいる。大方読み終わったが、まだ少し残る。「酒と旅の人」というのが先入するイメージであったが、それだけでない意外な発見がたくさん。短歌もいいが詩がいい。それに若々しい現代的な文章。風貌などで随分古いイメージをもっていたが、朔太郎や谷崎よりひとつ上だけ。同年生まれの野上弥生子は昭和のお終いまで生きていたのに彼は昭和の初めで死んでいる。草鞋に尻っぱしょり、股引、脚絆という旅姿はどう思っても時代的だ。しかしその草鞋でよく歩く。彼の旅は歩くのが身上。歩いて見えてくる情景の描写が実にいい。

  草鞋よ
  お前もいよいよ切れるか
  今日
  昨日
  一昨日
  これで三日履いて来た

  履上手の私と
  出来のいいお前と
  二人して越えて来た
  山川のあとをしのぶに
  捨てられぬおもひもぞする
  なつかしきこれの草鞋よ        「枯野の旅」より

 孤独な旅人だとも思っていたが、行く先々で同好の士との交歓、行きずりの人への思いやり、牧水は決して「孤高の人」ではなかった。それにつけても43歳没とは若すぎる。



     さびしさは秋の彼岸のみづすまし   飯田 龍太




新編 みなかみ紀行 (岩波文庫)

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