水涸る

『熱源』  川越 宗一著

 長い話であった。一昨年度後期の直木賞受賞作らしい。史実に基づいたフィクションということで、主要登場人物はみな実在した人である。

 舞台はサハリン。前回の「サガレン紀行」の関係で選んだわけではなく偶然に重なった。『サガレン』でも少し触れられていたポーランド人の流刑囚民族学者のプロニスワス・ピウスツキと樺太出身アイヌのヤヨマネフクが話の中心である。背景に日本軍のシベリア出兵・南サハリンの日本帰属・ロシア革命ポーランドの独立・白瀬による南極探検それに金田一京介によるアイヌ文化の収録・ソビエト連邦による樺太占領などもある。

 いわゆる大衆小説(エンターティメント)と純文学の違いはどこにあるのか当方などには分かるものでもないが、筋立の面白さや壮大さ、それに対して登場人物の感情描写などはやや平板といえるかもしれない。それでもサハリンの少数民族を記録に残すことに大きな情熱を燃やしたプロニスワス・ピウスツキという人を初めて知った。樺太出身のアイヌの人が南極探検で活躍したことも初めて知った。

 ウキペディアで調べるとピウスツキの最期は物語とは少し違うようだが、どちらにしても悲劇に違いはない。弟がポーランド独立の父であり共和国の初代元首であったのも事実らしい。

 ヤヨマネフクが案じていたアイヌ民族の未来、今年は国立アイヌ民族博物館「ウポポイ」も開館したというが、遅きに失したと彼は言いそうだ。

 

 

 

 

          用水の調査点検水涸るる

 

 

 

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くさぎも色づくときれい。

 

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コウニタビラコ

【第162回 直木賞受賞作】熱源

【第162回 直木賞受賞作】熱源