草の実

三河吉田藩・お国入り道中記』 久住 祐一郎著

 歴史学者の磯田さんお薦めの本である。返却期限が迫って、ともかく一冊でもと急いで読み上げた。

 テーマは「古文書で読み解く参勤交代の真実(リアル)」とある。三河吉田藩とは七万石ながら老中を務めた名門で、あの「知恵伊豆」と呼ばれた松平信綱の子孫である。今回話題になっているのは江戸末期、この藩の若殿が病気の藩主の名代として初めてお国入りをする旅の仔細である。旅の取りまとめ役をした人物が非常に筆まめで詳しい記録を残していたことが、参勤交代という大イベントの様子を明らかにすることになった

 とにかくまず厖大な出費である。筆者の概算では総額6百両から7百両というから、現在に換算すると1億800万円から1億2600万円(1両が18万円 文化文政時代の基準)である。幕府は参勤交代をさせることで藩費を浪費をさせる目論見があったと習ったが、思惑を超えて華美を競いあったせいもあるらしい。この本の場合も若殿の初のお国入りで毛槍の新調などの出費もあり、馬の鞍覆を虎皮にしたいとか(結局は幕府の許可が下りずにラッコ皮と熊皮になった)行列を長くしたいとか。

 行列の総勢は345人で、すべてが藩士というわけではない。むしろ人材派遣業者からの外注である。今ならイベント準備会社というか、彼等が藩に取り入って結構な利益を上げている。これだけの大勢が旅をするのだから宿割とか川越とかひとつひとつが大変なことだ。

 意外だったのは若殿様の屈託のなさで時々籠を降りて歩いたり馬に乗ったりして進んでいる。宿場ごとによしみを通じたい者たちが様々な進物を持って目通りに来るが、進物は頑固に断って、やむおえず受け取る場合も必ず対価を払っている。時代劇にあるように貰いっぱなしで私服を肥やすなどということはなかったようだ。

 巻末に文久3年(1863)当時の吉田藩の江戸における借財一覧がある。総額50768両(91億3824万)である。殿様も大変だったようだ。

 

 

 

 

          草の実をつけて散歩の靴帰る

 

 

 

 

 

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クサギの花と実