『京都』 黒川 創著
この人の本、三冊目。小説がそれほど好きでもないのに、読ませられるというのはこの人の筆力であろうか。
四編の短篇からなり、「京都」という町の記憶に繋がる話である。一編目と三篇目は関連があり、二編目は筆者の自伝的要素も関係しているように思う。今や世界的な観光地になりコロナ前までは観光客でごった返すようだった「京都」と全く別の顔を持った「京都」の記憶が中心だ。あえて土地の記憶を掘り起こすことにどういう意味があるのか。千年以上も都だった土地がどんな闇を持ち、どんな変化をたどっていったのかは、外の人間にはうかがい知れぬ。観光客でさんざめく今の京都だからこそ、今は「ない」という言葉で「あった」ことを消してしまってすむことではないというのが筆者の問題意識だろうか。
私は網野さんの「異形の人々」を思い出した。
湯の町に下駄の音ひびく十三夜
昨夜は十三夜。今年は中秋の名月も見たので、昨夜の後の月も見に出た。さすがに寒かったが、火星をお供に冴え冴えと美しかった。昔の俳句を思い出した。
ハマギク