秋風

『明るい夜』  黒川 創著

 身辺りに読みたい本がなくて「何かない?」とTに言う。「まだ読んでないけど、これでよかったら。」と最近仕入れてきた古本を出してくれる。あの黒川さんだ。まだ「鶴見俊輔伝」も読んでない、あの黒川さんだ。そう言えばKさんも黒川さんが面白いようなことを言っておられたと思い出す。

 京都に暮らす三人の若者のやるせない青春物語である。工藤くんは小説を書きたいと本屋の仕事を辞めてしまう。貯金を食いつぶしながらグタグタしているのだが一向に書き出せない。朋子さんはやっとの思いで大学を出たけれど好きな絵も描けず不規則なバイトで不眠症に陥っている。何だかかったるくて正規の仕事を辞めて、朋子さんと同じバイトをしているイズミちゃんもやはり不眠症。朋子さんの暮らす古い木造アパートは共同トイレと共同炊事場だというから、いつ頃の時代なんだろうと思うが、登場人物の年齢から推察するに2005年ごろでそんなに古い話ではない。ちゃんと携帯もでてくる。

 イズミちゃんの父方の故郷が京都の奥地の「広河原」というところで、そこの「愛宕さんの火祭り」の話を聞いたことから少しずつ三人の自分探しが動きだす。

 構成が1,2,3・・・9とあって最後に○の章があるのだが初めはこれが余分だと思っていた。藤本さんの解説で、これは工藤くんが書き始めた小説の一章だと気づかされるなんて、うかつもうかつ。よく読めば1は8の後にくる場面だ。

 語り口がいいのかなあ。なかなかいい話だった。バアサンとしては三人のこれからを見守りたい気分だ。

明るい夜 (文春文庫)

明るい夜 (文春文庫)

  • 作者:黒川 創
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 文庫

 

体調もちょっと良くなったので二ヶ月ぶりに美容室に行く。「どうしますか」と言われて少し長くなったからと、前々から一度してみたかった「マシュマロカット」を頼む。 眼鏡をかけたらなんだか藤田嗣治みたい。いつものカットのほうがいいかな。

 

 

 

       颯々と秋風をゆく髪切りて

 

 

 

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