露の玉

『万葉学者、墓をしまい母を送る』  上野 誠著

  この本について上野さんは「個人的体験を軸としながらも、その共同体や集団の歴史を踏まえた、小さな小さな歴史」であると語っておられる。つまりその小さな歴史とは、上野家の葬儀と墓の歴史なのであるが、全く個人的な体験ながら、それは近頃の墓や葬儀についての大きな変化の流れを示していてとても興味深く一気に読んだ。

 始まりは著者の祖父の葬儀の記憶からだが、ちょっと前の何処の地方でもそうであったようにそれは村落共同体での一大イベントであった。女衆が割烹着をつけて駆けつけて賄いを仕切り、男衆が祭壇を造り葬儀の規模を取り仕切るとういうのだが、うちの村でもつい二十年ぐらい前まではあった。ある年、他人様に迷惑になるし、こんな面倒なことはやめたという少し小金のある家が葬儀屋を入れ、仕出し屋を頼んだのがきっかけで、村中での葬儀は一気に葬祭場に変わった。そして、このニ、三年は家族葬への大変化。今は町内での葬儀の半分以上は家族葬である。それが悪いというのではない。私などはむしろありがたい。こういう傾向はこれからますます顕著になると思われるし、それが死者を軽んじていることになるとは思えない。

 上野さんはこういう「個人のものとなった死や葬儀、墓、宗教に対応した」個人的歴史としてこれを書かれた。簡素化はされたが、母を亡くして溢れ残った思いを家族史として残されたのである。改めて残される者や周りの者にとって「死」というのは大変だなあと思うが、それは誰もが受け入れるしか、否、受け入れてもらうしかない。

 なお、この本は今年の「日本エッセイスト・クラブ賞」受賞作である。昨日のドリアンさんの作品も今年ではないが同賞の受賞作であった。

 

 

 

 

          若きらがなぜ死を急ぐ露の玉

 

 

 

 

万葉学者、墓をしまい母を送る

万葉学者、墓をしまい母を送る

  • 作者:上野 誠
  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)