暮早し

空爆下のユーゴスラビア』 ペーター・ハントケ著 元吉 瑞枝訳

 今年のノーベル文学賞の受賞者はペーター・ハントケであるが、彼の受賞については様々に反発する声があると池澤夏樹さんが書いている。(「朝日新聞」11月6日朝刊)

 NATOによるユーゴの空爆は今では間違いではなかったかという考え方もでてきてはいるらしいが当時(1999年)西側では悪いのはセルビアだという考え方一辺倒であったらしい。ハントケはそういう中でセルビア叩きに異議を唱えた少数者であったからだ。

 この本は、彼が空爆下のユーゴスラビアを訪れて、かの地の人々が極度の不安の下でそれでも民族的団結を鼓舞しながらやっと暮らしている状況のリアルな報告書である。そしてまた西側のメディアが流す一面的な報道内容を厳しく批判する書でもある。

 コソボ紛争についてはよく知らないが、最近ベオグラード在住の山崎佳代子さんの本を二冊読んだので当時のセルビアの人々の辛さは少しはわかったつもりだ。「民族浄化」などというのも一方的にセルビアに貼られるレッテルでなくアルバニア系にもムスリム系にもクロアチア系にもあったということを人々の証言から読み取ることも出来た。

 NATO のとった方法は、自らは危険地帯に身をおかずに爆弾とミサイルで糾弾するいつもながらの酷いやり方だが、「誤爆」もいつもながらついてまわる悲劇だ。この時の空爆でも病院や市場や避難民が誤爆された。

 さてハントケが受賞するというのは当時の西側のプロパガンダの間違いを認めたと言うことなのかどうなのか。それにしてもノーベル賞受賞にもかかわらず日本でもハントケについては多く語られていないようだ。この本も県の図書館の書庫の中に埋もれていた。

 

 

 

 

           炎鵬を見て夕支度暮早し

 

 

 

 

空爆下のユーゴスラビアで―涙の下から問いかける (『新しいドイツの文学』シリーズ)

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