『エストニア紀行』 梨木 香歩著
エストニアはいわゆるバルト三国のうちの一番北の国である。首都はタリン、面積は九州ほどで人口は沖縄県よりやや少ない。IT化が進んでおり安全で報道の自由なども高い国だという。長い間他国に支配された歴史をもち、中でも旧ソビエトの支配は過酷を極めたらしい。この本にも少しだがソ連軍による強制連行の話が出てくる。
梨木さんは首都タリンから古い都のタルトゥ、さらに南下してヴオル、そしてバルト海に囲まれた島々へとほぼ一週間をかけてこの国をぐるりと廻る。古都には古い歴史が息づき郊外には茸やべりーの豊富で静かな森が広がり人々は純朴この上ない。
「自給自足は出来てもお金持ちにはなれない」と村のおばあさんが図らずもつぶやいたようにこの国でも地方はやはり人口は減少している。人が減っただけ豊かな自然は戻ってきているとも。
「『金持ちにはなれないけれど、自給自足はできる。』誰に媚びへつらうこともなく、誇り高くいきていける、そういうことであったのだ。」と後に経済危機に見舞われあたふたする日本で筆者はその言葉の本当の意味に思い至る。
電柱や煙突のうえには重さ五百キロという大きなコウノトリの巣がかけられている。自然愛好家の筆者は人間のいるところが好きだというコウノトリとの遭遇を願う。しかし、北国の早い寒さの訪れでどうやら筆者とは行き違いに南の国に渡ってしまったらしい。
紀行文には地図が欲しいと思うのだがこの本には付いていない。検索で出して確かめながら読む。写真は何枚かあるから赤瓦の古い街並み(まるでおとぎの国のよう)やら葦原の続く海岸線やら赤い縞模様のスカートの民族衣装などを見ることが出来る。素敵な手仕事がこの国へのいっそうの憧れをかきたてる。
追分の標(しるべ)に秋の深みけり
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: 単行本
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