八月

原民喜戦後全小説』 原 民喜著

 毎年八月は「戦争関連文学」を読むことにしている。今年は原民喜の『夏の花』を読もうと思い、Tの本棚から掲出の本と『原民喜全詩集』、それから梯久美子さんの評伝『原民喜』を出してきた。まず梯さんの本の序章で彼の自死の件を読んで、その事実に暗然とさせられた。 

 その後でまず『夏の花』だけ読もうとこの本を手にしたわけだが、被爆体験を描いたこの本もまた重い内容である。内容は三部作からなり最初は被爆直後(夏の花)、次が避難先での戦後の苦しい暮らし(廃墟から)、最後が被爆前の日常(壊滅の序曲)である。私は順序通り読んでいって原爆炸裂の四十時間あまり前からもう一度最初に戻った。それで、笑ったりいがみあったりする平凡な日常があっという間に崩れてしまう恐ろしさがよけいに身に沁みた。たしか井上光晴の『明日』も同じような設定だった。

 「戦争文学」などというジャンルは本当は好きではない。一年にせめて一回でもその地獄絵図に目を向けるのが生きている者の務めではないかと、ささやかな供養の思い。

 

 

 

 

       死者たちに寄りそふおもひ八月来