『アジア海道紀行』 佐々木 幹郎著
県の図書館で未読の佐々木さんの本と久しぶりに出会った。この人の書きっぷりが好きなのだが最近はどうしておられるのかなかなか出会わない。この本とて発刊は古いといえば古い。
海道紀行というのは鑑真などの足跡を辿りながら東シナ海を取り巻く港や都市を巡る旅の記録だ。坊津・揚州・舟山群島・寧波・長崎・釜山・済州島・平戸そして上海。東シナ海を内海のようにしてぐるりと回り人の交流や物の行き来を振り返る。昔の古い言葉に「海彼(かいひ)」という隣国を表す言葉があったというが、鎖国以前の日本には海を通してのお隣という意識があったのではないかと佐々木さん。
鑑真は日本への渡航を依頼された時、反対する弟子たちを制して「山川異域 風月同天 寄諸仏子 共結来縁」と語り、六度の苦難を乗り越えて来日されたそうだが、この言葉はもともとは長屋王が中国に送った袈裟に縫い取られた言葉で、鑑真はそれを日本の心ある言葉として引用したのだという。
「山川の域は異なっていても風月は天を同じうする」「海彼」とのお付き合いでは千三百年前のこの言葉を今こそ静かに思い返す時かもしれぬ。
傘立てに傘はあふれて梅雨長し
- 作者: 佐々木幹郎
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/06/22
- メディア: 単行本
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