梅雨入り

東海道ふたり旅』 池内 紀著

 「ふたり旅」のお相手とはどうやら「広重」らしい。副題に「道の文化史」とある。広重の「東海道五十三次」を行きつ戻りつしながら、当時の風俗・経済・文化などなどを紹介。例により語り口は歯切れのよい池内調で、知らず知らずのうちに日本橋から三条大橋まで、こちらは時々ネットで検索しながら地図を片手の紙上旅。旅を終えれば一廉の充実感あり。実地に歩いただけではこうはいかない。疾走するトラックなどの煤煙にまみれて、それらしき跡地を探し訪ねるだけに終わるだろう。

 それにしても広重の「東海道五十三次」は二十種類もあり版によっては随分絵柄が違うことも知らなかった。平面で奥行きをみせるために三角の構図をとっているというのも言われてみればなるほど。「く」の字型に曲がった道が多い。図版も載せられているが小さいから残念。ルーペを出してもよく見えぬ。そういえば昔、小さなカードが付いていたのはお茶漬けの袋だったかしらん。

 先程、ネットで田辺聖子さんの逝去を知った。田辺さんといえば『姥ざかり花の旅笠』が楽しかったが、あの作品を読んでもこの本でも江戸の道中というのは案外洗練されていたと感心するばかりだ。

 

 

 

 

     灯ともして書を繰るひとひ梅雨に入る

 

 

 

 

東海道ふたり旅: 道の文化史

東海道ふたり旅: 道の文化史