『暮らしの断片』 金井美恵子=文 金井久美子=絵
「暮らしの断片」とあるだけに暮らしのなかのこだわりについてつづた文章である。そこは金井さんらしくあとがきで、最近の女性向きメディアで流行語になっている「ていねいな暮らし」つまりすてきな暮らしを自慢げに啓蒙する文章ではないとわざわざ断っておられる。でも、初出が女性向け生活啓蒙誌でそこでこだわりを披瀝するのは、読む方にとっては同じように思える。だからといって素敵な暮らしのこだわりのいくつかを嫌味と思うわけではない。真空調理鍋も手軽なコーヒーメーカーも高級ソックスも麻のタオルも瀟洒なカラトリーもみんな心を動かされた。検索して「購入」をクリックしなかったのは偏にものを増やしたくないから。
こういうものについての話以外には今は亡き飼い猫の思い出話があるのだが、こちらは文句なく同感した。猫の思い出はあの手触りにあると言って「指さきをかすめて行く尾の先っぽの細さや、曲った尾の骨のこと」に触れておられたが、このくだりを読んだだけで昔懐かしい我が猫の手触りを思い出した。
美恵子さんの文にばかり触れたが、気に入ったのはお姉さんの久美子さんの絵である。童画にのようなあたたかみのある明るい絵である。かなりの頻度で猫も登場、「眠る猫」とか「トラー」とかはコピーして残しておきたいほど。同じトラ猫で長谷川潾二郎に「猫」という作品があったのを思い出す。描画だけでなくかわいいものを集めたコラージュもいい。
楽しませていただいた一冊だった。
大鯉の水切る背びれ夏の川
- 作者: 金井美恵子,金井久美子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2019/01/25
- メディア: 単行本
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