ラニーニャ』 伊藤 比呂美著

 この本の中の「ハウス・プラント」と表題にもなっている「ラニーニャ」を読む。どちらも彼女の初期の作品らしい。いつものように彼女自身の暮らしを投影した作品で、前者は最初のご亭主と別れて渡米した頃、後者はそのもう少し後が舞台か。どちらも渡米に纏わる混乱、例えば風土の違い、言葉の困難さ、ビザの問題から結婚、夫の闘病、子どもの拒否反応、チェック症状であったり拒食症であったりと問題山積の日常を息せき切ったような筆致で書いている。読んでいる方も問題に追いかけられているような気分で「はあはあ」と息継ぎしながら、それでもその後の成り行きを知っているだけにそれほど暗い気持ちではない。

 この二編はいずれも芥川賞の候補になって落選、後者は「野間新人文芸賞」を得たとあとがきにあるが、勝手な感想から言えば私も後者の「ラニーニャ」の明るさを感じる終わり方が好きだ。

一時帰国する筆者と娘たちに米国に残る夫が「帰って来るか。ほんとに帰ってくるか。」と聞くと、いろんな適応障害を乗り越えた娘達がそれを明るく肯う場面。

 

 桜が風で激しく散り始め水仙も椿も木蓮も色あせてきた。春はどんどん進んで行く。

 

 

 

 

    

        過ぎし日をおもえば疾し飛花落花

 

 

 

 

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