鴨の陣

佐野洋子の「なに食ってんだ」』   佐野洋子 オフィスジロチョー編

 佐野さんが亡くなってもう九年もたつのだから今さら新刊本は出ないと思うわけだ。ところがである。もちろんこの本は佐野さんの著作のあちこちからの抜き出しだが、懐かしい佐野さんの語り口は味わえる。美味しそうな料理の写真もある。へえ、そんな食べ方もあるのだと思ったり、真似して作ろうと思ったり。健太さんという息子さんとのやりとりやエピソードが結構楽しい。いろいろあったようだが幸せだったんだなとも思ったりもする。

 さて、ここからは我が家の話だが、何を考えてか去年から(というよりこちらの病気以後)H殿は毎日の夕食を日記に記録し始めた。名前のわからない料理は「何と言うのか」と聞いてくる。以前はよく食べる割にはあまり感想も言わなかったから、この関心の持ちようはどういう心境の変化かと思うが、悪い気はしない。便利なこともあって、献立を考えながらそろそろおでん鍋でもいいかと思って「今年になっておでんした?」と聞いたら、おもむろに日記を出して「いや、まだだ。」と宣った。故に明日はおでん鍋である。

 考えてみたら何を食べるかは最大の関心事のひとつである。贅沢ではなく普通のものを美味しく食べたい。そして出来ればちょっとお酒。そういうと家族は「ほんとに呑み助やなあ」というが、誤解である。ちょっとだけあればそれで充分幸せ。

 

 

 

 

     足音にちりぢりとなる鴨の陣

 

 

 

 

佐野洋子の「なに食ってんだ」

佐野洋子の「なに食ってんだ」