大根

『たそがれてゆく子さん』 伊藤 比呂美著

 いや、面白かった。何が面白かったと言えば老いていく身への共感ということだろうか。もちろん彼女は一回り下の世代で、当方とは比べものにならぬほど自由で行動的に生きている人なのだが、人の(女)一生の普遍性みたいなものは同じだ。つまり、恋をして子育てに奮闘しひと息ついたら親の死(彼女の場合は高齢の夫の死も)やら自身の老い、行き着いたのは解放感というよりぽっかりとした寂しさ。それらの体験がまるで鉈をバシバシ振り下ろすような文体で書いてある。ジメジメした悲壮感はないのだが、我が身の来し方行く末を考えるとなるほどなるほどと身に沁みるものがある。彼女も「おばあちゃん」と呼ばれる歳になり、苦労した娘達にいたわられる身になり、されどこれから新しいことへの挑戦もあるようだ。単なる「たそがれてゆく子さん」でないのはさすがだ。

 

 冬の暖かさはまだ続いている。りホームが終わって元に戻してやっと落ち着く。大工さんがなかなか礼儀正しい若い人で気持ちよかった。そう言えば檜の剪定をしてもらった庭師さんも礼儀正しい若い人であったが、そういう人たちが職人仕事に携わっておられるというのは何となく頼もしく嬉しい。

 

 天気が続くようなので紅葉を愛でながら美味しいものでもと「北陸」へ出かけることにする。病後初めての一泊旅だが我が家からは高速で一本道である。いつものごとく旅のプランを打ち出してプリントをする。家人は「好きだなあ」というが計画を立てるのも三分の一くらいの楽しみ。宿の手配も昼食処の候補調べも手抜かりなし。あとはお天気のみである。

 

 

 

 

 

     大根抜くずぼつと暗き穴深し

 

 

 

 

たそがれてゆく子さん (単行本)

たそがれてゆく子さん (単行本)