花野

 この二三日冷房のいらない日々が続いて気分はすっかり秋めいてきた。あれほど煩かったクマゼミたちが鳴りを潜めて昼間も虫の声しきり。キチキチキチとけたたましい鵙の鳴き声で昼寝の夢を破られて、「おや初鳴き?」と隣のH殿に声をかける。このまま秋に一直線とはいかず明後日ぐらいからはまた暑くなるというが、さすがにあの猛暑だけはご勘弁願いたい。

 

『花びら供養』   石牟礼 道子著

 石牟礼さん最晩年の一冊である。

石牟礼さんは「救いがたい現世嫌悪」があると言われる。幼い頃さまざまな生き物と交わった渚を懐かしみ「この列島の近代というものが、産土の風土を、いかに骨ぐるみ腐食させ、隅から隅まで再生不能と思えるほどの化学毒の中に漬け込んできたか」と吐き捨てられる。その嘆きや怒りは及びもつかぬほど深い。もちろん原点には水俣の水銀汚染がある。が、それだけではない。どこもここも三面コンクリート張りになってドブになってしまった小川も、田舎を見下げてきた風潮も、テレビに映る下品な映像もなにもかも「この国の精神のたががゆるんでしまったにちがいない」と嘆かれる。深い深い絶望である。読んでいて息苦しいほどの絶望である。石牟礼さんほどの鋭敏な神経をもたぬ身にもこの世の歪みはそれなりに感じられて、如何ともしがたい澱のようなものが胸に貯まった。

 

 

 

 

     花野揺らして鳥たちの朝餉かな

 

 

 

 

花びら供養

花びら供養

 

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