八月

流れる星は生きている』   藤原 てい著

 毎年この時期は戦争文学を読むことにしている。このふやけきった時代に、せめてあの戦争の悲惨さを忘れないためと亡くなった人々を悼んでのつもりである。

 今年はTの本棚にあったこの本にした。戦後の話題の本であったというから気にはしていたのだが辛い話であろうと平生は躊躇していた。著者は新田次郎夫人、藤原正彦さんのご母堂である。敗戦間際の旧満州から一年以上をかけての引き上げの記録。それも五歳と二歳と生後一ヶ月の幼子を連れての食うや食わずの飢餓の一年、悲惨な記録である。読んでいる途中に三人の子どもさんの誰かが亡くなるのではないかと気が気ではなく、端折って後半を読み三人とも無事に帰り着かれたことを知ってまず安堵した。それにしてもていさんは強い母親であった。何度も命の危機はあったのに、知恵や勇気やときには屈辱にも耐えて子どもたちを守りぬいた。とても真似はできそうもない。それでもいざとなれば母は強くなれるのだろうか。そんな辛い母性が試されない時代で本当に良かった。

 戦争だけは絶対に駄目だとわかりきっているのに、世界の紛争地では今もていさんと同じような悲惨な難民の親子の姿がある。こういう人間の愚かさに時に絶望的な気持ちに襲われる。

 

 

 今日はこれからひと月半ぶりの病院である。昼食ぬきでCT検査。その後の経過観察である。検査結果は一週間後ということだ。体重もすこしずつ回復して気持ち的にはあまり心配はしていない。

 

 

 

 

     八月や忘れてならぬこと数多

 

 

 

 

流れる星は生きている (中公文庫)

流れる星は生きている (中公文庫)