白靴

『朽葉色のショール』    小堀 杏奴著

 著者は言わずと知れた鴎外の次女である。今まで何か読んだような気もするが記憶にない。姉の茉莉とは異なり堅実な家庭を築いた彼女らしい抑制のきいた文章である。生き方というか人生観に触れたものが多い。父鴎外の思い出についても、鴎外の暮らしに向かう姿勢、つまり何事にもどんなつまらないと思われることにも全精神を集中する生き方に触れた文が多く、筆者もまたそれを見習わんとされていた事がよくわかる。

 前半と後半に分けて編集されているが、前半、主に家庭生活に題材をとったものでは「冬の生活」が最も心に残った。戦時中の信州での疎開暮らしに材を得たものだが、厳しい寒さと物質的乏しさの中でも穏やかさや慈しみを失わぬ「聖家族」のごとき一家の暮らしぶりが描かれている。以前、家庭というもの家族というもののひとつの理想を庄野潤三の作品に感じだが、杏奴の描く家庭もひとつの理想像に違いない。

 後半、鴎外に関することや著者と関わりのあった文学者などの話では、永井荷風との関わりなどが興味深かった。いろいろ誤解の多かった荷風について、風聞とは異なる人間的な人柄の一端が紹介されていた。

 鴎外の娘さんたちはやはりなかなかであった。茉莉さんの話はほとんど出てこないが、これを機会に再読してみたくなったし、著者の『晩年の父』も読んでみようと思った次第。

 

 

 連日39度超えの暑さでさすがにこたえる。この暑さでボランティアをされておられる方々の様子を見ると、頭を下げるほかにない。トシヨリの半病人はこれ以上周りに迷惑はかけられないと「熱中症」だけは気をつけている。

 

 

 

 

     白靴を慣らし履きして旅に出ず

 

 

 

 

朽葉色のショール (講談社文芸文庫)

朽葉色のショール (講談社文芸文庫)