氷菓

『女三人のシベリア鉄道』    森 まゆみ著

 なかなか読み切れない。厚いうえに薬のせいですぐにうとうとなるせいもある。決して中身がつまらないわけではない。

 女三人とは与謝野晶子、中條(宮本)百合子、林芙美子である。何れもシベリア鉄道を経由して欧州を訪ねた先人女性で、その跡を辿ってみるというのが、この本の中身だ。が、先人たちのエピソードもさりながら森さんの体験も盛られた紀行文でもある。途中下車のモスクワや長春(東清鉄道)での街歩きの様子がかなり興味深い。もちろん長距離列車「シベリア鉄道」の話は当然である。いずれも今から十年ほど前の報告であるから、変化の激しい両国のこと、さらなる変貌を遂げているにちがいない。それにしてもロシアからの報告には「粛清」の言葉が多すぎる。革命の美名のもとに一体どのくらいの人々の命が絶たれたことか。もちろん百合子のロシアへの憧れはそういう陰惨な歴史の始まる前の訪問である。晶子はまだ一般人の外遊も珍しかった時に、七人もの子ども残し余裕もない経済状態での訪欧である。欧州からの夫の呼びかけに応じての一人旅。むろん言葉も出来ない。「ようやりますねえ」というしかない。この三人の中ではもともと放浪癖のある芙美子の場合が一番気楽かなと思うのだがこれとて戦争前夜の話である。

 子育てもすんで、どこで果てても好きなことの途中ならという思いっきりのよさ。こういう元気印の森さんの行動力である。そう言えば昔、高校の同級生だったMさんが「シベリア鉄道」でヨーロッパに出かけたという話を人づてに聞いた頃があったが、あの頃当方は子育て真っ最中で「うらやましい」と思いましたねえ。そのくせニューヨークに単身赴任中の夫からお誘いがあった時は、老父と幼子を残してはでかけられませんでしたねえ。この優柔不断に比べるとまさに感心と羨望に尽きます。

 

 

 

 

     信号を待つ漢(おとこ)をり氷菓舐め

 

 

                                ※漢・・・マッチョな男性を言います

 

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                                                          セージの花と蝶

 

女三人のシベリア鉄道

女三人のシベリア鉄道