さくら

 『おらおらでひとりいぐも』   若竹 千佐子著

 青春小説に対して玄冬小説と名づけて、話題の本である。筆者はまだお若いようだが、まさにこの桃子さんの年の当方にとっては、なるほどなるほどと納得のいく面白さであった。

 桃子さん74歳。愛するご亭主を亡くして十五年。娘も息子も今や疎遠、淋しい一人暮らしを悶々とすごしながら様々な内なる言葉に耳を傾ける。

 

 どうすっべぇ、この先ひとりで、何如(なじょ)にすべがぁ。

 おら何如(なじょ)な実を結んだべが。・・何にもながったじゃい。亭主に早く死なれるは、子供らとは疎遠だは、こんなに淋しい秋の日になるとは思わねがった。

 

 故郷の幼い頃の甘い思い出。故郷を飛び出してきた若かった日々。ご亭主と出会った頃の沸き立つ思い出。桃子さんの想いはあちへ巡りこちへ巡って・・・ある時ふっーと開眼する。

 

 人は独り生きてゆくのが基本なのだと思う。そこに緩く繋がる人間関係があればいい。

 

 自由だ、自由だ。なんでも思い通りにやればいいんだ。

 

桃子さんは歩き出す。足を引きずり引きずり歩き出す。ご亭主の待つあちらの世界から迎えがくるまでは力強く

 

 おらおらでひとりいぐも  と

 

 

 

 

     花を撮り花と撮られてさくらかな

 

 

 

 

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 昨日、我が家の桜開花。例年よりかなり早い。桃子さんではないが「赤(桜の花に)に感応する、おらである。まだ戦える。おらはこれからの人だ。」と思って。

 

 

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

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