初蝶

『小さな雪の町の物語』   杉 みき子著

 ネットでたまたまこの人の名に触れて、図書館の閉架棚から借り出してきた一冊。

 くもり日の似合う町である。長いがんぎに寄りそわれた木造の家なみは、この町に城のあった数百年のむかしから、少しの変化もなく、低い空の下でまどろんでいるように見えた。         「冬のおとずれ」より

 著者の故郷、越後高田に材をとったいくつかのお話。雪に埋もれてひっそりと暮らすおばあさん。心優しく賢い子ども。静かな懐かしさが心地よい。そう言えば、「高田」というのはもう今はないらしい。直江津市と合併して上越市になったというから「直江津」という呼び名も消えてしまったのだそうだ。

 そうそう、教科書にあった「わらぐつの中の神様」も杉さんの作品。やはり雪国の暮らしとそこに暮らすおばあさんが出てくるお話だった。

 「雪がすっかりとけて城あとの花見もまじかというある夜」暗い夜道を歩いていた少年が聞いた馬と人の走る音。

   ー急げや。ことしは遊びすぎたすけ、早くいかんとまにあわんどー。・・・・・・

 あくる朝、妙高山と南葉山のいただきには、いつものはね馬と種まき男のすがたがくっきりとうかびあがった。       「春のあしおと」より      

                     

 雪国はまだまだ「春のあしおと」には遠い日々だろうが当地はすっかり春めいてきた。今日も図書館に出かけたら駐車場はいつになくいっぱい。陽気に誘われたように公園をそぞろ歩く人も多い。

 コンコンコンと小屋のトタン屋根を叩く音。「だあれ」と見ればカー公殿。巣作り用の桜の枝を折るのに余念がない。ここにも春の訪れである。

 

 

 

 

     初蝶や草掻く夫に餉(け)を告ぐる

 

 

 

 

小さな雪の町の物語

小さな雪の町の物語

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