『天野忠詩集』 天野 忠著
稔典さんの本で知って県立図書館で借りてきてもらった一冊。わかりやすく心に沁みる詩が多い。この詩集(日本現代詩文庫 土曜美術社)には、おそらく編集順だと思うが九つの詩集と詩画集とエッセイが収録されている。若いころとおもわれるものは貧乏や病気や死や生きにくさがテーマで、だんだん年齢をかさねると夫婦や家族や老いがテーマになってくる。
私のとなりに寝ている人は
四十年前から
ずうっと毎晩
私のとなりに寝ている。
夏は軽い夏蒲団で
冬は厚い冬蒲団で
ずっと毎晩
私のとなりに寝ている。
あれが四十年というものか・・・・・・
風呂敷のようなものが
うっすら
口をあけている。
「時間」より
どれもいいが、老年になってからの婆さんと爺さんの出てくる詩が今の気持ちにはぴったりとくる。はてさて私の隣の風呂敷のようなものは四十年どころかもうすぐ五十年も一緒だが・・・。
いろんなむかしが
私のうしろにねている。
あたたかい灰のようで
みんなおだやかなものだ。
むかしという言葉は
柔和だねえ
そして軽い・・・・・
いま私は七十歳、はだかで
天井を見上げている
自分の死んだ顔を想っている。
地面と水平にねている
地面と変わらぬ色をしている
むかしという表情にぴったりで
しずかに蝿もとんでいて・・・・・・。
「私有地」より一部分
天野忠氏、平成五年逝去。享年八十四歳。
- 作者: 天野忠,大野信
- 出版社/メーカー: 土曜美術社出版販売
- 発売日: 1983/01
- メディア: 文庫
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友達のIさんと電話で「そろそろ蕗の薹の頃だね」と話して、さっそくいくつかの蕗の薹を庭で摘んだ。陽だまりにはオオイヌフグリも咲き出して少しずつ春は始まっているようだ。初採りの蕗の薹は父が好きだった蕗味噌にしようか。
オリンピックも半分終わり、あまり「メダルメダルと言うな」と言いつつやはりメダルには感動。小平さんの「金」の瞬間にはちょっとうるうるした。
蕗味噌や母亡きのちの父のこと