卒業

『竹林精舎』  玄侑 宗久著

 七年ぶりの書下ろしである。大僧侶に対して失礼な言い方かも知れないが、玄侑さんは真面目である。いつも真正面から物事に対峙しておられるところが好きで今回の一冊も期待して手に取った。

 一言で言えば、東日本大震災で両親を亡くした若者が仏の教えに導かれながら福島の小さな禅寺の住職として自立していく話である。若者らしい苦悩や放射能汚染という福島の現実があるなかで、一歩づつ前向きに進んでいこうとする宗圭という若い禅僧には好感がもて、庇護者のような気持ちで一挙に読めた。

 「放射能は怖がらなけれがならないのか、怖がりすぎてはいけないのか」この本にもいくども出てくる問題。「安心もするし不安も感じる」という友人の僧侶敬道の言葉は著者自身の見解だと思う。いたずらに不安を煽ることで福島の人々が被っている苦悩は大きいと思うが、だからといって汚染された現実を全く大丈夫と容認もできないということだと思う。福島に住む当事者だからこその深刻な問題意識を、こんなふうに簡単に片付けることに後ろめたさを感じるのだが、端に住む人間にはもう忘れかけた意識だから改めて考えさせられた。

 それにしても宗圭の「死者」に対する真摯な姿勢には感心した。戒名をつけるのにもあのように生前の人となりを聞き、その人柄にふさわしいものがつけられるとは。おそらくそれは玄侑さんのやり方なのだろうが、羨ましいことだ。こういう真摯なお坊さんが多ければ今の仏教も捨てたものではないが・・・。

 

 

 

 

 

      希望てふ白き画布あり卒業す

 

 

 

 

竹林精舎

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