春立つ

「古代史講義」  佐藤 信編

 久しぶりに買った新刊である。「邪馬台国から平安時代まで」と副題にあるとおりその間の「最新の研究成果や研究動向」を十五人の研究者で手分けして整理したものである。「昨今の研究の進展を受けてかっての古代史の通説は覆され」つつあるとあるが、かっての通説にさほど詳しくない身にとってはどこがどう変わったのかよく理解できないところもある。しかし、興味深かった点はいくつかありそのうちの二三について触れてみたい。

 ひとつは「邪馬台国」の位置の問題である。畿内か北部九州かと二者択一の問題がつづく論争だが、根拠となる「倭人伝」の記述に懐疑的な意見を紹介、中国史観に彩られた「倭人伝」を参照するのには慎重に成らざるを得ないとしている。その上で3C前半から後半にかけて(卑弥呼の時代)北部九州を中心に交易が活発だったのは事実だがその勢いは出雲を中心とした山陰地方にまで広がっていたとする。4C初め頃には交易の中心は畿内主導に移るようで大きく見れば北部九州から畿内へという流れは変わらないようだ。

 もうひとつは「聖徳太子」の存在である。聖徳太子はいなかったとする内容の本を読んだことがあるが、現在では「聖徳太子」は再検討の対象らしい。必要以上に聖人化されたが、実際は「厩戸皇子」ということで推古天皇蘇我馬子との三人体制で政治権力の中心を構成、よくいう「冠位十二階」などもこの体制のなかでつくられたものらしい。この関連で悪党のイメージがある蘇我氏も見直されつつあるということだ。

 8Cから官僚制的な国家を目指したヤマト政権が中国を手本として涙ぐましい努力を重ねていく様子には驚かされる。地方官にまで漢字や漢文の習得が必要視され文書主義が徹底されたという。漢字練習をした木簡が出土するのも宜なるかなである。

 入門書とあるがそれほどわかり易いわけではない。ただそれぞれの講義の後に「さらに詳しく知るための参考文献」があげてあるのは親切かもしれない。

 

 立春が過ぎて思わぬ寒波。今朝は朝からちらちらと雪。今夜のおでん鍋を用意しながら閉じこもって編み物と読書でもするしかないかなと思う。

 

 

 

 

     春立つや叩いて伸ばす鉄の塊

 

 

 

 

古代史講義 (ちくま新書)

古代史講義 (ちくま新書)