夏燕

「天災から日本史を読みなおす」 磯田 道史著
 読ませられるものがあって、一気に読んだ。副題に「先人に学ぶ防災」とあり、歴史上の災害記録の解読を通して防災意識を育もうという内容。朝日新聞のbeに連載されたものに加筆して書籍化したものとあるが、まとめて読むとまた違った重みがある。
 秀吉の全盛期に起きた天正・伏見地震が家康を救い、豊臣政権崩壊の引き金になったのではないかという推察も面白かったが、もっと興味深かったのは原発銀座の若狭湾津波をもたらしたという記録。現在の調査では小規模だったとされたが、果たしてどうか。古文書などには「在家ことごとく押し流す、人死ぬ事数知らず云々」とあるというのだが。
 さらに「南海トラフト・相模トラフトと富士山噴火の連動性」のくだりはもっと興味深い。この二つが前後して起きたのは九世紀以降13回のうち11回、最後は1707(宝永4)の富士山噴火と宝永大地震で、江戸での地震被害も降灰被害も各地の津波も酷かったという。次に南海トラフトがいつ動くのか。それは推察の域を出ないが直近の地震(昭和南海地震)から約70年。「90年以内に2回おきたことがないという歴史的経験からすれば・我々には20年ちょっとの地震猶予期間が与えられているのかもしれないが、相手は地球である。」と筆者は述べる。
 筆者は歴史から学ぶ教訓として、暮らす土地についての知識、いざという時の避難場所、避難方法を決めておくことなどを繰り返し書いているが、こういうことは個人の努力もさりながら学校や地域でもしっかりと共有してほしいものだ。
東日本大震災の後、歴史学者としての矜持が書かせた意欲の伝わる一冊だった。




     いくつかは若鳥らしき夏燕