かたつむり

「長い時間をかけた人間の経験」 林 京子著
 晩年の作品である。被爆の死神にようやく「走り勝った」と思った筆者は、いつのまにか目の前に迫った老醜のもうひとつの死に気づく。二つの死に向き合いながら、連絡を絶った病床の友を思い札所巡りを始める。炎昼の遍路道を歩きながら、先に逝った人々の面影との対話。八月九日その日に亡くなった人も、長年生きて亡くなった人も、被爆の死神にとらえられた人ばかりだ。おおかたの遍路を終えて、筆者は同じ被爆者の旧知の老医師に会う。彼は、アメリカの研究書『内部の敵』を紹介しながら体内に入り込んだ放射線物質での「体内被曝」の恐ろしさを語る。それは半世紀の時を経ても体内で放射線を出し続けており、例えばアラマゴルドでの爆発実験の結果「ニューメキシコ州が乳癌死亡率のピークを記録したのは、実験から三五年もたってのこと」だったという。「核の競争と戦争は止められるのだろうか」という筆者の疑問に、「僕は希望を捨てません、希望は一般の人たちです、庶民が生き延びる知恵と力を得るでしょうね、生物は本能的に滅びまいとする努力をするものです」と言うのだ。
 さて、この著作の後に福島の被曝は起き、核を挟んだ世界的な緊張関係は益々抜き先しならぬ状況に陥っている。人の叡智はいつ目覚めるのであろうか。

 新聞の「数独」を解く。☆5の時だけ挑戦するのだが、今日は詰めを間違えてやり直し。1時間半もかかる。午後は野球と相撲と数独で終わってしまった。





   かたつむり日月(にちげつ)遠くねむりたる   木下 夕爾




長い時間をかけた人間の経験

長い時間をかけた人間の経験