春惜しむ

 南河内の国宝を訪ねて  一日目
 仕事を辞めたらご開帳の重なるこの時期に、南河内の寺を訪ねたいというのが前々からの予定であった。ところが大荒れという天気予報。なんと間の悪いことと嘆いたが、宿も予約したことでもあり、ままよと出発を決意。ところが、道中は雨もなく時折日も差して、山桜をこきまぜた新緑の山々が実に美しい。
 昼少し前河内長野の「観心寺」に到着。さすがに一年に一度のご開帳で賑わっている。観心寺飛鳥時代役行者によって開かれ、平安時代弘法大師が整備したと伝わる真言宗のお寺である。本尊は「如意輪観音」手が六本の観音さまである。嵯峨天皇のお后に似せたとも言われ妖艶な美しさで秘仏であっただけに彩色もまだまだ鮮やか。なんと空海作だという。お厨子の前には大勢の人が座り込み声には出さぬが深いため息とともに拝観する。

 ここは楠正成ゆかりの寺でもあり、観音さまを安置する金堂(国宝)はは後醍醐天皇から命を受けた正成が指揮をして造ったものである。三重塔も計画したが戦死によって断念され「建掛の塔」として今に残る。境内には「正成の首塚」も祀られている。


 さて、ここまでもった天気も昼を取って外に出たら、パラパラと降りだす。いくら何でもまだ宿に入るのは早いともう一寺訪ねることに。女人高野といわれる「金剛寺」。白洲正子さんが「かくれ里」に書いた「日月山水図屏風」のあるお寺である。屏風の特別公開は年二回でレプリカが飾られているだけだがそれでも見応えはある。実は以前に展覧会で実物を見たこともあるのだが、室町の作というが斬新な意匠の作品で全く古さを感じさせない。「月」の銀色が変色して真っ黒な三日月になっており、探すのにちょっと苦労。
 このお寺も観心寺同様弘法大師南朝の影が濃い。今年御本尊が国宝になったということだが金堂が修復中で京博に寄託中とのこと。
 雨の参拝であったが明るい雨に濡れた庭の緑が鮮やかで雨もまたよきかな。






     夜もすがら強き雨風春惜しむ


           夜来風雨声 花落知多少