「私はどうも死ぬ気がしない」 金子 兜太著
 超人的に元気な兜太氏の独白である。出版当時が95歳とあるからいまは97歳か。従軍体験のある氏は戦死者への思いを胸にいだいて戦後を出発。俳句と仕事を両立、反骨的生き方を貫く。この本では氏の人生の節目節目で詠まれた句を挟む。無季非定型、アニミズム礼賛、母郷(原郷)指向、本能のままに生きる荒凡夫としての自己、反戦、氏の俳句を貫くコンセプトである。掲載句は珍しく有季の俳句。山国秩父の春の峠を想像した句だという。兜太氏らしい生命力があふれた句だと思う。当方はどっちかというと氏の俳句はよくわからない。朝日俳壇の選句を読んでいても時事的政治的で納得できない。今回まとめて兜太俳句を読んでみて力強い句が多いことはわかった。97歳まで元気なはずである。

 庭のタラノメが顔を出した。棘のない園芸種である。風情のない木で庭にはあまりふさわしくないのだがこの時期の季節の味としては重宝している。





     猪(しし)が来て空気を食べる春の峠  金子 兜太