涅槃図

「羊飼いの暮らし」 ジェイムズ・リーバンクス著
 ワース・ワーズが詩に詠み、ピーターラビットの故郷のイギリス湖水地方で代々牧羊農家を営む一家の話である。筆者はオックスフォード大を出ながらファマーの道を選んだ人。筆者自身の体験記で牧羊農家の誇りを語りつつ直面する厳しい問題にも言及したもの。それは都市生活者に比べて低い労働対価だったり、生活の場を観光対象としか見ない人々への違和感だったり、知的興味を軽視し経験を重視する環境だったりと様々だ。さらに生き物を相手の厳しいリスク。だがそれにもまして四季の移り変わりとともに自然のなかで生き抜く暮らしを賛美する。
 英・米でベストセラーになりさまざまな賞にノミネートされた作品らしいが、翻訳本のせいか読み通すのに努力がいった。緑の丘陵地に白い羊が映える英国の田園風景の背景にこんな物語があるとは初めて知った。上っ面だけのの観光では見ることのない英国の姿だと思う。私などは筆者の親世代とあまり変わらないと思うが、日本の場合はここまで前時代的でかたくななことはないのではないか。階級社会があったせいか伝統を重んじるせいかそのへんは社会的歴史的理由があるのだろう。
 しかし、いくつかの点では日本の農業就業者の現実と重なる。高齢化、小規模経営、米を主食の伝統的な食習慣の崩壊など、日本の方がむしろ深刻かもしれない。

 今日は釈尊入滅の日。お寺では涅槃図を掲げ涅槃会がおこなわれるという。涅槃図といえば入滅したお釈迦様を取り囲んで多くの生き物が嘆き悲しむ構図。見る機会があるといつも猫を探すのだが、なぜかいない。なんでも当時のインドには猫がいなかったとか、猫がいじわるされたとかいろいろ勝手な理由はあるらしいが、わが亡き猫たちもお釈迦様の功徳を受けていると信じたい。






     座る余地まだ涅槃図の中にあり  平畑 静塔






羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季