亀鳴く

 一月の寒波に匹敵する寒さということで、一時緩んだ身も心も縮み上がる。今読んでいるのはちょっと長編でなかなか感想ともいかず、苦肉の策として今日は変わった季語の話。掲載句の季語は「亀鳴く」。実際に亀が鳴くということはなく情緒的な季語。ものの本によれば初出は藤原為家の和歌「川越のをちの田中の夕闇に何ぞと聞けば亀のなくなり」と言われる。春の季語には他にも変わったものがあるが、同じようなもので「田螺鳴く」がある。むろん田螺も鳴かないが、水が温むと活発に動き出すから亀よりは俳句にしやすいかもしれぬ。他にも「龍天に登る」というのがあるが、これは仲春の季語で春分の頃に龍が天に上り雲を起こし雨を降らせるという中国の故事によるものらしい。同じく故事によるもので、秋の季語だが「雀蛤と化す」というのもある。いずれもなかなか使いにくいものだ。




     万年の孤独に倦(う)みて亀の鳴く





いぬふぐり